日本水産油脂協会  
    水産油脂協会の資源講演会
  九州大学大学院の松山氏が講演
 マサバの完全養殖とブランド化
         
   日本水産油脂協会(東京都渋谷区、平田芳明理事長)は8月24日、東京都渋谷区のアイビーホール青学会館で「平成30年度(第70回)水産油脂資源講演会」を開催した。
 三題目は平成23年から九州大学と佐賀県唐津市が取り組んでいる「マサバの完全養殖とブランド化」について九州大学副理事 大学院農学研究所教授の松山倫也氏(写真)が講演した。
 唐津市は水産業、農林業、観光業を主要産業とする人口12万人余りの玄界灘に した都市で、九州大学が移転した福岡県糸島半島に隣接している。九州大学と唐津市は新しい水産資源の創出や水産業の高度化など、唐津市の水産業の振興を進めることを目的に事業協定を終結した。この「唐津市水産事業活性化支援事業」では、唐津市が管理研究棟と屋内水槽棟を持つ「唐津市水産業活性化支援センター(以下センター)」を新たに建設し、そこに九州大学が「農学研究院唐津水産研究センター共同研究部門」を設置して共同研究を実施している。その研究テーマの一つが「付加価値の高い新養殖魚種開発」。唐津市との事前協議を して「完全養殖マサバ」を開発することになった。
 福岡を含む北部九州ではマサバを生で食べる食文化があり、サバの刺身にゴマ風味のタレをつけた「ごまサバ」は郷土料理として有名だ。マサバの生食はアニサキス感染症が懸念されるが、アニサキスは天然の食物連鎖の中で寄生するため、完全養殖にすればアニサキスの感染のリスクを限りなく低減できる。また、天然種苗に依存する 常のマサバ養殖は種苗の確保が安定的ではないが、完全養殖では種苗の計画的供給が可能となる。さらに脂ののりを餌料で調整できるため、旬の旨味を持つ活魚を周年で提供できる利点がある。地元唐津市のみならず、福岡市が大きなマーケットとして期待できることから、新養殖魚種として「完全養殖マサバ」が選定されたという。2012年から種苗生産が始まり、14年9月からは体重400g以上に成長した「完全マサバ」の流 を開始。生産した種苗はセンターで7〜10㎝程度にまで中間育成した後、海 生簀を持つ地元の生産業者(佐賀玄海漁業協同組合養殖部会)に引き渡している。12年は一業者だったが、種苗の 産化と養殖規模の拡大に努めた結 、18年は6業者で約10数万尾を養殖。育成には市販の飼料を使っているが、低価格、高成長を目指して唐津港での水揚げ物の加工残渣魚粉を利用し、地元の飼料会社で製造した幼少用の開発も試みている。
 「完全養殖マサバ」における付加価値の一つとして挙げられるのはアニサキスの低減化。「完全養殖マサバ」を活魚で提供する旅館、飲食店の協力を得て調べたところ、これまでモニターした約2万尾におけるアニサキスの規制率は0%で、アニサキス感染に極めて安心・安全であることが実証されたという。
 16年に「完全養殖マサバ」の名前を公募したところ「唐津Qサバ」に決定した。QはQuality、究極、九州大学などをイメージしており、現在、「唐津Qサバ」は唐津市内のホテル、旅館、飲食店、直売所・スーパーのほか福岡市内の飲食店、百貨店で導入されており、東京へも鮮魚として試験出荷が始まった。
 現在、松山氏ら関係者は、ゲノム編集技術に着目し、これをマサバの育種に応用することを試みている。
 「TALENやCRISPR/Cas9を用いた標的遺伝子配列の遺伝子破壊では、外来遺伝子が付加されない点で遺伝子導入による遺伝子組換え個体とは異なり、また遺伝子破壊に用いた分子が個体(GMO)に残存しないという点で、自然突然変異体と区別がつかない。このような点からガイドラインの整備は未だだが食品として利用される可能性がある。また、マサバの完全養殖では稚魚期の共食いの減耗が問題になっており、魚類で攻撃性に関与する因子であるアルギニンバソトシン(AVT)の受容体の一つAVTR︱vla2遺伝子のKOを試みた。これらのKO個体の攻撃性が低減し、生存率の向上がみられれば、同じサバ科魚で共食いによる食減耗の大きいクロマグロの育種にも応用できるため、成果が待たれる」とまとめた。
 


  太田油脂